PROJECT
官民連携による超高密度地震動観測データの収集・整備
2017年4月から「首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト」が開始された.このプロジェクトは,3つのサブプロジェクトからなり,その中のサブプロジェクト(b) 「官民連携による超高密度地震動観測データの収集・整備」の一部を地震研究所で担当している.これまでに解明を進めてきた首都圏の地震像の精緻化や都市の詳細な地震被害評価に資するものにするため,政府関係機関が保有する,首都圏に整備された稠密かつ高精度な地震観測網(MeSO-net)と全国規模の地震観測網(K-NET,Hi-net等)により得られるリアルタイムの観測データ,民間が保有する地震観測データを統合した超高密度地震動観測データを収集・整備することを目標としている.
具体的には,MeSO-netを安定的に運用し,そこから収集する高密度な地震観測データに加えて,基盤的地震観測網および民間企業等により設置された計測機器から得られる大量かつ様々な品質の地震データを有機的に統合するマルチデータインテグレーションシステムを開発する.その中で,首都圏の地震ハザード評価に資するため,首都圏中心部や伊豆地域における詳細な地下構造の提案,首都圏における過去~現在の地震像の解明,将来の大地震による揺れの予測手法の開発,統合された地震観測データを用いてノイズレベルの高い首都圏でも適用可能な自動震源決定手法の高度化,歴史地震による揺れの分布の再現,3 次元階層化地震活動予測モデルを開発等の研究を行っている.
今年度は,多くの人々が集まる施設において,臨時的な地震観測を行った.一時的に多くの人々が集中するような施設である空港やサッカー場等には,旅行客や観客だけでなく,施設の社員や店舗の従業員等,様々な人が滞在している.それらすべての人々が,迅速な避難行動をとることが望ましいが,画一的な避難計画では,必ずしも危険を回避できるとは限らない.その理由は,対象とする敷地や建物の範囲は広大であり,常に均一な被害が生じるわけではなく,危険は,その都度,様々なところに存在するからである.そこで,まず,敷地や建物における揺れの不均質を知ることで,被害状況の有無を知る手がかりを取得する技術の開発に着手した.
空港では,滑走路周辺の敷地内および旅客ターミナルや本社ビル等の建物内のそれぞれ10ヶ所ずつに地震計を設置し,約14日間の地震観測を行った.固有周期1秒の三成分地震計を設置し,単一乾電池8本で稼働するレコーダーで現地収録することで,約50個の自然地震を観測することができた.得られた地震波形には,観測点ごとに揺れの違いがあり,約0.3~3倍の振幅の違いがみられた.このデータを無線テレメータ等によって伝送すれば,被害の程度を迅速に知ることになり,その後の避難誘導や救援行動の助けとなる技術になりうると考えている.