研究活動

RESEARCH ACTIVITIES

RESEARCHERS GROUP

比抵抗構造探査と電磁気観測

グループメンバー

教授
上嶋 誠
助教
臼井 嘉哉
特任研究員
畑 真紀
関連研究者
小河 勉(観測開発基盤センター),小山 崇夫(地震火山噴火予知研究推進センター)

電気比抵抗は,温度,水・メルトなど間隙高電気伝導度物質の存在とそのつながり方,化学組成に敏感な物理量である. これらの岩石の物理的性質は,すべて,その変形・流動特性を規定する重要なファクターであり,比抵抗構造と地震学的諸情報をあわせることで,より詳細かつ正確な情報を抽出し得る. 従って,当センターは内外の研究者と協力して,震源域や火山地域スケールおよび列島スケールや周辺大陸縁辺域の比抵抗構造を解明するプロジェクトにおいて,観測法やインヴァージョン手法の開発を含め,中心的な役割を担ってきた (火山噴火予知研究センター,海半球研究センター,観測開発基盤センターとの共同研究).

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地下の電気比抵抗構造の推定、地震・火山噴火のメカニズムの解明

地下の電気比抵抗構造を明らかにすることにより,地震の発生の仕組みや火山噴火の仕組みの解明に寄与してきた.

茨城県北部~福島県南部における広帯域MT観測によって得られた電気比抵抗構造. 上は深さ4~5kmでの鳥瞰図. 下はいわき地震の震源域を東北東~西南西に切る断面図. 多くの地震(丸印)が高比抵抗域で起きており,いわき地震の震源の直下には低比抵抗域がある.

4月11日に福島県浜通りを震源とするマグニチュード7.0の地震(いわき地震)が発生. 周辺地域でMagnetotelluric法(MT法)観測を実施した結果,地震の多くが高比抵抗域で起きていること, いわき地震の震源の直下には低比抵抗域があることが分かった(左図). 高比抵抗域は周囲よりも変形しづらいと予想されるため,高比抵抗域が狭ければ岩盤がずれてもすぐ止まるが, 広ければ止まらず地震の規模が大きくなる可能性がある.

また,震源直下には低比抵抗域が存在する. 低比抵抗域は周囲よりも連結した水を多く含むと考えられ,水が多い領域は変形しやすい傾向がある. そのため、低比抵抗域の上にある高比抵抗域にひずみがたまり易くなり,その結果,地震が発生した可能性がある. 今後,観測例が増えれば,水が地震発生に及ぼす影響や高比抵抗域の広がりと地震の規模の関係が明らかになると期待できる.

ネットワークMT法の観測のデータを用いて推定した九州全域の3次元電気比抵抗構造. 南部の火山(霧島),北部の火山(阿蘇),その間の非火山地域の地下構造には顕著な違いが認められる. ネットワークMT法を用いると地下数100kmに至る深部構造が推定可能である.

九州では北から南へ,九重,阿蘇,霧島,桜島と活動的な火山が並んでいる. 比抵抗構造(上図)を見ると,南部の火山の地下には,上部マントルから 地殻までの広域に低比抵抗域が分布する. 低比抵抗域はマグマに起因すると考えられ,火山まで連なっている. 北部の火山の地下には沈み込むプレート(スラブ)直上から地殻まで連なるような 低比抵抗域は存在せず,マグマの供給経路が異なることが示唆される. 九州の下に沈み込んでいるフィリピン海プレートは南部が古く,北部が新しい. 年代によって温度やかたさ含水量が異なるため,沈み込む角度や脱水が起きる深さなどが変わり, 比抵抗構造に違いが表れていると解釈できる.

電磁気観測技術の開発

比抵抗構造の推定精度や地震や火山活動に起因する電磁場変動の検出能力を向上するための新しい観測技術を開発にも取り組んできた. ネットワークMT法は地震研究所が独自に開発した観測手法であり,通常のMT法とは異なり,電話回線をメタル線として利用する. MT法では電位差を計測するために電極をつないだメタル線を張るが通常はその長さは数10m程度であり, 人工ノイズの影響などで深さ数10kmを超えると比抵抗構造の推定信頼性が低下する場合が多い. ネットワークMT法では電極間隔を数kmから数10kmと長くできるため,広範囲にわたって地下数10km以深の情報を得ることが可能である. 日本列島全域にわたる大局的な地下電気伝導度構造を明らかにするため,他大学とともに,これまで全国各地でネットワークMT法による観測を実施してきた.

左:地中に埋めた電極をメタル電話線に接続する.中央:各地に設置した電極から伸びる電話回線.メタ ル電話線を利用することで長基線の地電位差観測が可能となる.右:各地の電極につながった電話線間 の電位差を測定する測定器.測定データはインターネット経由でダウンロードできる.写真はニュージーラン ドにおける試験観測時のもの

インバージョン手法の開発

電磁気観測データから電気比抵抗構造を推定する際はインバージョン(逆解析)を実施する. 地下比抵抗構造の推定精度を高めるため,新しいインバージョン手法を開発してきた.

ネットワークMT法の3次元ジョイントインバージョン手法
位相テンソルを使用した3次元MTインバージョン手法
MT法とネットワークMT法の2次元ジョイントインバージョン手法
地形の影響を精度良く考慮するための,有限要素法を使用した3次元MTインバージョン手法

電磁場観測

地下の電気比抵抗構造の推定,地震や火山活動に起因する電磁場変動の検出のためには,地表で電磁場を観測する必要がある. 日本全国,海外で観測を実施している.

2010年7月に草津白根山周辺域で実施した広帯域MT観測. 磁場を測定するセンサーの埋設作業.

2015年以降,南東北~北関東において島弧を横断する測線で広帯域MT観測を実施しており, 地震や火山活動に関係する特徴的な比抵抗構造が推定されている.

四国西部や伊豆大島においてネットワークMT法の連続観測を実施している. 四国西部の観測領域の近くの豊後水道では1997年、2003年、2009年と6~7年おきにスロースリップイベント (地震を起こさずにゆっくりとすべる地殻変動現象)が起きている. スロースリップイベント時の電磁気的シグナルやスロースリップイベント発生前後の比抵抗構造の変化を捉えられれば スロースリップの仕組みの解明につながる可能性がある.

ニュージーランドでもネットワークMT観測を開始している. ニュージーランド北島には九州と同様に地下構造の不均質に起因すると考えられる非火山地域が存在しており, 九州の比抵抗構造との共通点や相違点を調べることで沈み込み帯の島弧における火山地域・非火山地域の形成 メカニズムを明らかにできる可能性がある. また,ニュージーランド北島に東から沈み込むヒクランギ沈み込み帯では巨大地震やスロースリップイベントが繰り返し発生しており, スロースリップ発生時の地下流体分布の時空間変化の検出を目的にその近くでネットワークMT観測を実施している.

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