新潟県中越地震に伴う地表地震断層速報 2004.10.26
                                                
越後智雄(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻学術振興会特別研究員)
松多信尚(東京大学空間情報科学研究センター客員研究員)
佐藤比呂志(東京大学地震研究所教授)
伊藤谷生(千葉大学理学部教授)
加藤直子(東京大学理学系研究科博士課程)



活断層分布の概要
 23日に発生した中越地震の震源域周辺には,十日町から長岡を経て新潟平野の両縁にか
けて分布する信濃川断層帯と,湯沢付近から魚野川左岸に分布する六日町断層帯などが知
られている.


観察ルートの概要   地図へ
 調査隊は,地震発生の23日夜に2班に分かれて東京を出発し,松多・越後班は上信越道経由で国
道117号線を経由して十日町へ,佐藤・伊藤・加藤班は福島の磐越道経由で長岡にそれぞれ向かった.
松多・越後班は,まず十日町断層帯において地表地震断層の有無を確認するために国道117号で十日
町から小千谷市を目指したが,下条から先が通行不能だったため引き返し,国道353号線を経由して
ターゲットを六日町断層帯に切り替え,石打,六日町,大和町,小出町,堀之内町,広神村へ向かった.
佐藤・伊藤・加藤班は長岡平野東縁において地表地震断層の有無を確認するため長岡市,見附市、
小千谷市から六日町を目指したが,道路網の寸断によって,南進が困難となり,西へ迂回して六日町
側へのアクセスを試みた.


結果の概要
 今回の被害の中心地である山古志村には直接立ち入れなかったものの,魚沼丘陵の両縁に分布
する既往の活断層に関しては,ひととおり観察することができた.
その結果,六日町断層帯では,活断層の分布が指摘されている道路近傍で地すべりなど斜面崩壊
が多く分布していることが確認された.また,幅数センチの亀裂や道路の陥没などが確認できたが,
いずれも連続性に乏しく,断層運動に伴うと思われる顕著な垂直方向の地表変形は認められなかった.
ただし,六日町断層帯の北端部に位置する小平尾付近で,国道352号線の道路上に地表地震断層
と疑わしい亀裂が続く個所が存在するのが確認できた.この他に,魚沼丘陵北東部の堀之内町で
舟山付近に分布する東西走向を示す活断層近傍で,アスファルト道路に短縮変形を示す変形を確認
することができた.しかし,両者とも連続性が乏しいことから現時点では地表地震断層とは判断できなかった.



観測地点の詳細

山古志村 東側の断層
 
 被害が甚大であった山古志村の東に位置する活断層に小平尾(おびろう)断層.小平尾断層は
都市圏活断層図「小千谷図幅」(渡辺ほか,2001)に記載される.この断層は西傾斜の逆断層と
考えられるため,震源の位置や被害地域を踏まえて今回活動した断層である可能性が高いと考え
現地調査を実施した.

1, Y-01小平尾集落:小平尾付近では中位面とされる段丘面上に過去の地震によって変位し
た断層崖があるとされる.今回の地震では断層トレース上に比較的連続性のよい亀裂が認め
られた.亀裂は山際から道を横切り納屋の端、畑の中、縁石と続き広い道に達する。
この亀裂は道路を横切り分布する。その延長上は水路にも亀裂が入っている。
段丘の南西端の道には消雪パイプやその周辺のアスファルトが圧縮で盛り上がっている。
これらは断層活動の可能性もあるが、地震動によってもともとの崖の際付近が崩壊・地すべりを起
こしたためにできた割れ目や変位、盛土・切土の境界部分を挟んで地震の揺れで地面が異なった
動きをしたためにできた亀裂でも説明がつき、真偽は定かでない。しかし,この段丘西側の一段低い
段丘の道路上には上記の亀裂の延長部分に亀裂を認められなかったことから,一連の亀裂は地震
のゆれに伴ってできたものと判断した.
1−1 段丘の北東縁の亀裂(写真42)(家の人の話だともともと下る道で亀裂の下は土管であるらしい)
1−2納屋の変位(写真43)(土台がずれているように見えるが写真左側は崖である)
1−3 畑の変位(写真39)(ずれているように見えるが左側が崖でもある)
1−4 縁石・道路の亀裂(写真37)(亀裂は直線的に続くが、道路を作るための盛土と段丘の
境界部分である可能性が強い)
1−5 水路の重力性と思われる亀裂(写真33)
1−6 消雪パイプ・アスファルトの短縮(写真3132)(アスファルトの下は空洞で変位は不明)

2, Y-02吉原付近:小平尾断層と段丘が交差する吉原付近では,断層谷とされる谷に大きな
崩落が認められたが断層運動との関係は不明である.また,沖積面を通る道路には断層が通
過すると推定される付近でも亀裂が認められなかった.(写真50)

3, Y-03高位段丘面上の地形:高位面には小平尾断層および六日町断層によると思われる変位
地形が認められる.しかし,この高位段丘上にも亀裂等も含め目立った地変は認められない.
写真はこの段丘の遠景.(写真53)

4, Y-04都市圏活断層図:小平尾断層字付近の崩壊:奥只見道光高原ゴルフ場東側の小平
尾断層付近の谷沿いの道路が崩落している場所もあるが,崖に面して谷に向かって崩落して
おり断層との直接の関係はないと思われる.

 以上の調査結果より小平尾断層では地震に伴う明瞭な変位は認められない。

魚沼丘陵内の断層

 堀の内南方の上越新幹線浦佐トンネル付近には新編日本の活断層(活断層研究会,1991)や
逆断層アトラス(池田ほか編,2002)によって、ほぼ東西走向の断層トレースが記載されている.
この断層は長さも短くそれ自体が地震を起こすとは考えにくい.しかし魚沼丘陵直下の断層運
動に伴って地表地震断層が現れている可能性もあり現地調査を行った.現地周辺は段丘崖に
そって多数の崩落が認められた.

1, 船山集落:U-01この断層の過去の活動によって高位段丘に変位が認められていたが,今回の
地震による地表地震断層は認められなかった.

2, 増沢の東:U-02上越新幹線浦佐トンネル南東700mぐらい付近にあたる高位段丘の基部の
斜面道路上に断層とレースの走向に調和的な圧縮変形に伴うアスファルトの亀裂・変形が認め
られた.圧縮変形が認められる地点の上位2m程度のところにオープンクラックがあるためアス
ファルトが地震のゆれに伴って斜面をずり落ちた可能性が高い.ただし,オープンクラックが5cm
程度であるのに対し短縮部分は15cm近くに達することの説明はつけられなかった.しかし,この
地点以外には断層の運動を示唆するような状況がまったく得られなかったことから,この断層が
今回の地震に伴って動いた可能性は低いと判断した.(写真5562・60
 

六日町断層
 
 六日町断層は金(2001)に詳しい報告があり,魚沼丘陵の東を区切る西傾斜の逆断層である.
今回の地震の震源はこの断層の北部付近であり,北部域が活動した可能性もあると考え現地
調査を行った.

1, M-01塩沢町大沢より断層沿いに北上し,塩沢駅西方付近,鎌倉沢から余川にかけて,斎藤
記念病院南方に位置する断層運動よって形成されたバルジ(小丘),欠之上から四十日にかけて,
五日市スキー場から浦佐スキー場にかけては断層運動による地変は認められなかった.小出付
近では断層崖が魚野川によって削られて残っていないと考え,小出高校西側の山際から小出イ
ンターチェンジ付近までと小出町中心地付近を東西に走ることで断層による変位を確認しようとし
たが認められなかった.
ただし,六日町断層の上盤側にあたる大和町一村尾付近の墓石が反時計回り回転しているのに
対し,断層の下盤側にあたる小出インター付近の墓地では時計回りに回転している.断層を挟ん
で地震動が逆だった可能性を示唆する.しかし,確認した地点が限られているため断言はできない.

1a地点.(写真02)五日市スキー場では断層トレース付近.地震動に伴った地すべり.

1b地点.(写真07)一村尾の墓地で墓石が反時計回り回転をしている様子.

1c地点(写真1420).浦佐スキー場南の市野江付近.地震動に伴った地すべり.
大量の水が関与している.1d地点.(写真21)小出インター北側の墓地で墓石が時計回り
回転をしている様子.


2, M-02魚野川より北側の六日町断層は渡辺ほか(2001)の都市圏活断層図小千谷図幅に記載
されている.この断層を横切って調査をし,堀の内橋―新破間橋,下倉―旭コンクリート工場,並柳
地点,田尻地点で地変がないことを確認した. 連日付近の渡辺ほか(2001)による黒実線地点では
段丘崖で大規模な崩落が認められたが断層運動との関係はないと思われる.

2a地点.(写真4447)推定断層上付近の段丘崖の崩落現場

十日町断層
 我々は十日町断層付近に25日未明に到着し調査を開始した.夜明け前だったため十分な視界は
得られなかったが、十日町断層には顕著な変位が認められず,亀裂の多くは重力性の亀裂である
と判断し詳細な調査を行わず,国道353号線で小平尾断層および六日町断層に移動した.

1, T-01当間川北付近:水堀付近の国道で活断層のトレースが国道と交わる付近で多数の亀裂が
確認できる.ただし,顕著な変位は認められない.

2, T-02下条一丁目二丁目付近:断層トレース上で道路に多数の亀裂が認められた.しかし,顕著
な変位は認められなかった.

堀の内村寸断
 H-01国道117号線は下条より北へは交通規制があり小千谷方面には行けなかった.国道17号
線も堀の内で西に行けず,調査を終了した.
 堀の内付近まで北上すると、全壊家屋が目に付き始め、地すべりによる土塊が上越線の架線を
切断し線路を覆う様子が確認できた.植生がないところは今回の地震の崩落跡と思われる.
写真81102113